光を届けろ! Challenge of Delivery

Dialogue 03

魅力を「つくる」、そして「広げる」 文芸とIP・ライツの仕事

いま、作品を読者へ届ける方法は、どんどんと多様化し続けています。
原作の形を変え、より幅を広げて届ける映像化や、言語の壁を越えて作品の魅力を伝える海外翻訳など。選択肢も手掛けられる仕事も、その魅力も広がっています。
今回は、作品を届けるための「つくる」「届ける」を担当する、文芸編集とIP・ライツの仕事について、担当者のインタビューをお届けします。

01-1

文芸編集の仕事

文芸編集部副編集長

園原 行貴Sonohara Yukitaka

2008年入社。広告部、文庫編集部、文芸図書編集部を経て2019年より同デスク。
2022年より文芸編集部、2025年11月より同副編集長。

はじめに、いま担当している仕事を教えてください。

園原

単行本と文芸誌「小説宝石」を通じて文芸作品の編集に携わっています。担当させていただいている作家さんや作品にジャンルの制限はありません。面白い作品や世に問う意義のある作品を送り出すための一助になれるよう尽力しています。

文芸の仕事として、本ができるまでにいろいろな業務があると思います。一連の流れをご紹介いただけますか?

園原

作家さんに原稿を書いていただく際には、先輩から引き継いだ方に執筆をお願いさせていただくケースと、まだ光文社で執筆されていない場合は新たに依頼させていただくケースとがあります。どちらの場合もご執筆の依頼に始まり、どのような作品を書いていただくかの打ち合わせ、また必要に応じて取材などを経て、ご執筆に着手していただきます。多くの時間と労力をかけてお原稿を書き上げていただいたのち、一冊の本にする工程に移ります。ゲラ(校正刷り)での内容のチェック、装幀家さんとの打ち合わせ、社内関連部署との宣伝施策の検討などを経て刊行に至ります。

作家の方に原稿を書いていただく際、編集者から具体的に内容を提案することはありますか?

園原

こちらからテーマやモチーフを提案することもありますし、作家さんの書きたいものを伺いながら内容を詰めていくこともあります。大切なのはご執筆のためのモチベーションだと思いますので、その点をなにより意識しています。

01-2

「よりよくするため」の編集

編集の仕事のより具体的なところをお伺いします。作家の方とのコミュニケーションはどのように取られていますか?

園原

打ち合わせでの対話はもとより、新刊の感想を伝えたり、トークイベントなどに足を運んだり、趣味にご一緒したり。できるだけ作家さんのお考えを知り、時間を共有できる場面を増やせたらと思っています。

作家の方との仕事のなかで、印象的なエピソードを教えてください。

園原

東野圭吾さんの作品『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(映画タイトル『ブラック・ショーマン』)の映画公開に併せて、主演を務める福山雅治さんのラジオ番組に東野さんがゲスト出演されました。その際、収録に同行させていただきました。『ガリレオ』のゴールデン・タッグでもある途轍もないおふたかたが、ざっくばらんに対話を繰り広げてらっしゃる光景をすぐ目の前で拝見させていただいたことは忘れられません。

文芸の仕事をするうえで、ゲラへの鉛筆の入れ方など、意識していることはありますか?

園原

ゼロから作品を創造する作家の方とその作品への敬意を絶やさないことを第一にしています。当たり前のことですが、誰しもが多くの人の心を動かす作品を創れるわけではありません。だからこそ作家さんはじめプロのクリエイターがいます。そんな方々の作品に対して軽々しい指摘などは決してしません。ゲラの鉛筆ひとつにしても、いただいた作品を世に送り出すうえでよりよくするためにはどうしたらよいか、ということを念頭に置いています。

01-3

文芸のデジタル化とこれからの変化

文芸の仕事を取り巻く状況も変化してきていると思いますが、園原さんから見た今の状況について教えてください。

園原

SNSやWebでの販促・宣伝活動に編集者がこれまで以上に関わる機会が増えてきているのかなと思います。InstagramやX、note等でも発信しているのは、新聞広告などの媒体では届かない層に向けての訴求へ繋げたいためです。また、書籍販売部主導の企画でオンライン配信で書店員さんへの新刊案内を実施しています。各作品において担当した編集者こそ伝えられる魅力がありますので、それを最大限伝えるアピール力も必要になってきているように感じます。

同じ書籍でもコミックはSNSでのバズを狙い、作品づくりの時からその要素を意識して作品をつくっている部分もあると聞きますが、文芸はいかがですか?

園原

SNSを意識することはありません。小説が本として刊行されるまでには執筆期間含めある程度の時間が必要です。作品の構想をあたためる段階でバズり要素のあるトピックを扱うことにしたとして、刊行が数年後の場合、むしろ間の悪さが目立つ可能性があります。刊行後にさまざまな要因で結果的にバズることがあるかもしれませんが、話題になる場合、それは作品本来が持つ価値や力によるものと思います。

デジタルの環境が変わってきていますが、仕事の仕方の変化などはありますか?

園原

特にコロナ禍以降、オンラインで作家さんや装幀家さんたちと対面できる機会が増えたので、仕事全体が以前よりスピードアップした印象があります。また、ガジェットを活用する機会も目立ってきています。タブレットを用いての入稿もでき、PDFでゲラを確認される作家さんもいるので、状況や好みに合わせて、仕事のやり方の選択肢が増えました。

デジタルでも仕事をするうえで、特に意識していることはありますか?

園原

なるべく気持ちを伝えられるコミュニケーションも絶やさないことです。たとえばメールだけだと時に素っ気ない印象で伝わってしまうこともあるので、お目にかかったり、電話したり、オンライン越しに会話したりすることは欠かさないようにしています。

いま、学生の皆さんも紙以外というところを意識してくださるようになっていると思いますが、文芸の新しい展開にはどのようなものがありますか?

園原

大きくは2点です。ひとつは紙以外の媒体での刊行です。小説を味わうための媒体としてオーディオブックのニーズは引き続き広がっています。ふたつめはコンテンツとしての二次展開です。映像化には以前から力を入れていますが、いまは海外での翻訳出版展開にもより注力しています。海外における日本の文芸作品への注目度が高まっています。実際、昨年ロンドンに赴く機会があり、いくつかの書店さんを訪ねたところ、他社さんの作品ですが雨穴さんの『変な家』や柚木麻子さんの『BUTTER』が店頭の目立つ場所に平積みされていました。より多くの読者の方々に作品を届けるための形を、日々模索していきたいと思います。

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光文社のIP・ライツのいま

IP・ライツ事業部 部長

今泉 祐二Imaizumi Yuji

1996年入社。広告部を経てCLASSY編集部、2005年より同デスク、
2006年より同副編集長、2010年より同編集長。
2019年よりJJ編集長、2021年よりPR事業部長、
国際事業部を経て2024年よりIP・ライツ事業部長。

はじめに、IP・ライツ事業部の仕事について教えてください。

今泉

いまはIP・ライツ事業部では、海外版権と映像化事業、商品化の大きく3つに業務が分かれています。海外版権は、光文社の書籍やコミックを海外に売り出す際に、海外の出版社やエージェントと交渉して契約する窓口になる仕事です。映像化は、小説やコミックを実写の映像化や舞台化、アニメ化の受託の窓口と制作を一緒に担当し、商品化は、コミックのグッズ制作や、コラボカフェやポップアップストアの受託を担当しています。

ジャンルの異なる仕事がいくつか並行しておこなわれているようですが、それぞれ具体的な内容を含めて詳しく教えていただけますか?

今泉

海外版権については、以前は年に何回か開催される大きなブックフェアを中心にセールスをしていましたが、いまは海外のエージェントや出版社と直接関係が築けてきたので、日常的にオンラインのミーティングをしたり、来日の際に打ち合わせを設定したりということが多くなっています。こちらから出向くときでは、ソウルでのブックフェアなどに参加しています。光文社のおすすめの商品をセールスし、現地の出版社やエージェントに買ってもらうことが目的です。担当社員の分担としては、欧米と中国・台湾、韓国などでエリアで分けています。

映像化については、映像制作会社やテレビ局、映画会社に「映像化におすすめしたい原作があります」とセールスする場合と、「この作品の映像化権は空いていますか?」とオファーが来る場合があります。決まったとしても完成までは時間がかかり、ドラマ化であれば最低1年、映画だったら2年、アニメだったらいまは4年くらいという長いスパンになります。映像化の際の光文社のいちばんの仕事は、編集部を通しての著者とのやり取りです。映像化の際には原作そのままではなく、短くしたり新たなエピソードを付け加えたりする必要があり、その許諾を著者と丁寧にやり取りして決めていきます。映像化自体の許諾から脚本の許諾、キャスティングの許諾など、確認事項は多岐にわたります。映像化を実現するためには制作会社の意向なども反映する必要もありますが、光文社として、著者の意向を優先してすすめています。完成後にはプロモーションに入っていくので、販売部やプロモーション部と連携しての新聞宣伝やSNSまわり、書店や電子書店では放送・公開前に在庫を切らさないようにしつつ、映像化の帯などでアピールしていくことがミッションになります。

商品化については、いまはBLジャンルのコミックを中心にやっています。いまは多くのオファーの中から、どのような商品を作るか、どのようなイベントを開催するかを、編集者を通じて先生にご説明し、条件をすり合わせていきます。商品化の際には、新しい商品を展開するために、あらたに描き下ろしていただく必要があるので、先生にとってプラスになるかを見極めながらすすめていきます。コミックのグッズでは、色味が違ったり、デザインが違ったりしてはいけないので、試作の段階で先生と細かく確認しながら制作します。

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海外への売り出し方のリアル

海外翻訳の作品の際には、どういう作品を推すかなどの決め手はどのようなものですか?

今泉

基本的には、海外でも名前が知れ渡っている作家の作品を中心にセールスしますが、その場合、日本で出版された段階ですぐにオファーがきます。光文社だと、東野圭吾先生はアジアを中心に人気があるので、積極的に売り出しています。

キャプションが入ります

東野圭吾先生の『虚ろな十字架』『ダイイング・アイ』中国語版

アジアやヨーロッパなどで、それぞれこういうものが売れるなどの特徴はありますか?

今泉

ヨーロッパや欧米は、『リカバリー・カバヒコ』や『ちびねこ亭の思い出ごはん』シリーズなどの癒し系が人気でしたが、最近はミステリー系に移行しつつあります。ほかには、LGBTQをテーマにした作品や、女性の主人公が社会をどうやって生きていくか、といった作品が人気です。東南アジアはホラーが人気なのですが、SFは全く人気がない。台湾ではいまはコミックが熱いなど、いろいろな特徴があります。

キャプションが入ります

青山美智子先生『リカバリー・カバヒコ』英語版と、
高橋由太先生『ちびねこ亭の思い出ごはん』シリーズの
オランダ語・ドイツ語・英語版

光文社の作品が海外で展開される際、光文社が現地で担当する仕事はありますか?

今泉

海外での展開の際には、その国独自の表紙や付録などをつくっていただくことがあります。もちろん光文社でも確認はしますが、基本的にはその国の出版社やエージェントにお任せすることが多いです。その国にはその国に適した売り方があり、それを熟知しているのは先方ですので。

02-3

IP・ライツの仕事に必要なこと

IP・ライツ分野を志望してくださる学生に、どのようなスキルが必要かお伺いしたいです。

今泉

海外版権をやるのであれば、英語ができないと難しいです。商談をしていくこともありますし、光文社の小説のあらすじや魅力を説明しなければいけないなど、高いレベルの語学力が必要になります。入社してから英語の勉強をするとなると、仕事のために自社の作品をたくさん読む必要があり、その他の業務もこなしながら英語を鍛えていくのはかなり難しいので、学生のうちに取り組んでいた方がいいと思います。英語以外だと、マーケットの規模の大きい、中国語や韓国語も生かすことができます。

IP・ライツの仕事は、光文社の作品の形をどんどん変えて、新たな魅力を広げていく仕事かと思います。その際に難しさや意識していることはありますか?

今泉

商品化に関しては、流行りのグッズが次々出てくるので、どういうものが売れるかというところを考えなければいけない。たとえばアクリルスタンドをつくるとなっても、どのようなものがいま人気かという市場調査が必要になります。グッズは多岐にわたるので、キャッチできるアンテナが必要になってきます。

ふだんから市場も見ているので、編集部にこういうものが売れているということは伝えていますが、小説やコミックは企画立案から刊行まで最低1、2年くらいかかるので、いま流行っているものが2年後に流行っているかはわかりません。部としても、流行を見てすぐに行動に移せるように、常に準備していく必要があります。

いまの学生に取り組んでおいてほしいことはありますか?

今泉

基本的な読書量が足りないと入社してからの苦労が大きくなってしまうので、とにかくたくさんのコンテンツに触れておいてほしいと思います。たとえば映像化のオファーが来た際に、その作品の魅力や核となる部分を理解することができず、脚本の改変の調整をする際などに作家から信頼を得られなくなってしまう可能性もあります。

ほかには、ひとつの作品をどれだけ広げられるかという柔軟な発想が必要です。作品の横展開がIP・ライツの本分なので、本も読まなきゃいけないし、映画も観なきゃいけない。ドラマも観なきゃいけないし、グッズも買いに行かなきゃいけないし、コラボカフェにもリアルイベントにもいかなきゃいけない。なので、好き嫌いの激しい人や、「自分はこれしかできない!」という姿勢だと難しい。その場に行ってなんでも楽しめるフットワークの軽さと雑食さを身につけてほしいです。

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就活生の皆さまへのメッセージ

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就活生の皆さまへのメッセージ

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就活生の皆さまへのメッセージ

最後に、就活生に向けてメッセージをお願いいたします。

園原

作家の方が新しいものを創り出す現場に、その一番そばで、じっくり、とことん向き合うことのできる仕事が文芸編集だと思います。いままでに見たことのないもの、楽しみや驚きをもたらすもの、大きな話題を呼び起こすものをつくりたい、という編集者の気概もまた作品を世に送りだすうえでの原動力になります。前のめりに小説や編集を楽しめる方と一緒に仕事ができたら嬉しいです。

今泉

いまはヒットした作品を映像化、商品化など、さまざまな形態に広げていくことが必要で、これは光文社ではあまりやっていなかったジャンルの仕事。この部も2年前にできた部なので、これから光文社ができる新しいビジネスを考えられる魅力があります。IP・ライツは営業部門の仕事になりますが、これからは営業もクリエイティブな仕事をしなければいけない。編集部に対しても「いま、市場でこういうものが受けるから、それにマッチするような作品を作ってほしい」というように、アイデアや意見をたくさん出していく必要があります。そこを前向きにとらえてくれる方に来ていただきたいと思います。

撮影/白倉利恵 構成/人事総務部 ※役職名や固有名詞は2026年2月時点のものになります